アオアルキルキア

不定期連載

題詠 はちみつ

 

題詠 はちみつ

 

蜂蜜といって、最初に思い浮かぶのは「くまのプーさん」だ。

ディズニーキャラクターとしての認知度が圧倒的に高い。時代を超えて愛されているスーパースターについて、いちいち説明はしないが、彼(?)は、だいたいにおいて蜂蜜の壺と一緒に描かれている。連想するのも無理はない。

原作での彼も蜂蜜が大好物、という設定なのだという(僕は少し前まで原作があることすら知らなかった)。巷では蜂蜜ジャンキーだと揶揄されることも少なくない。ディズニーランドで大人気のアトラクションはその名も「ハニーハント」だ。直訳すれば「蜂蜜を狩る」となる。

蜂蜜を狩る?

あれ、きみ、壺持ってんじゃん!

まだいるの!?

常備していてもさらにハントせずにはいられない。

よほど甘くて、美味しいのだろう。

 

「ハニーハント」はもちろん英語だが、訳しかたによっては「きみを捕まえる」とも言える。洋画に登場するカップルが交わす挨拶は「おはよう、ハニー」で始まる。ハニーを訳せば、愛しのきみだ。

 

甘美な、とろけるような花の蜜を、最初に恋人と重ねたのは、いったい誰なのだろう。日本でいえばそれこそ百人一首のころからあったのかもしれない。

はるか昔から、誰かは誰かの蜂蜜だったのだろうか。

 

僕はよくコーヒーを飲むときに蜂蜜を「使う」。ちょうどいい甘さになるからだ。

呼びかけるときのハニーは「使う」ことがない。恋人をいちいち蜂蜜のような君、などと思わない。歯の浮くような、どころではない。そんなことをいおうものなら、歯が飛ぶ。恋人の顔面に突き刺さるかもしれない。

それくらい、その比喩は恥ずかしい。

 

ただ、ハニーが甘いのは知っている。

ついつい手を伸ばしてしまう。一度口にしたらやみつきになる。もう、手離せない。忘れられない。知らなかった頃には戻れない。虫歯になろうが、歯が溶けようが、夢中になる。もう一度あの味を。もう一回あのひとときを。ああ、ハニーがいないと、気が狂う。

 

そうなるくらいなら、知らないほうがましだったかもしれない。甘い蜜などなくても、人は水で生きていける。そのほうが楽だったように思う。

壺に入れてまで舐めていたい、彼の気持ちが、わからないでもない。

だって、ハニー、おいしいんだもの。

 

 

 

はちみつを知らないままに干からびて砂漠と同じ色になれたら