ミネトンカは、はかない
ミネトンカは履かない。
小動物?りすとか、あとは猫?っぽいだとか言われるけど、全然ピンとこないな。でももしかしたらアタシには見えない首輪があって、冷たい鉄でできた鎖が、あ、首輪自体ももちろん鉄で、だからピンク色の痣とかも首にはあって、もちろんそれも見えなくて。あ、アタシ今、もちろんって2回も言った。ほんとだ。口癖だ、まじで。佐藤さんよく聞いてるなー、ウケる。…でもちょっとキモい。
緑色の感熱紙がクレジットカードの処理端末からデロデロと出てきて、高井さんがそれを千切った。
「つーか飼いたいもんミッチー。うちで飼いたい」
で、続きを言った。
続きって言うのは、アタシが猫周辺の哺乳類に似ている、という感想(?)っていうか感動(?)の、セリフ、の次に放たれた、という意味だ。
アタシは猫だとか飼われるだなんて言われてしまったら孤独感に苛まれた父親の束縛がとうとう外部に漏れ出してしまったのか、と不安になりながらも、笑った。
「あ、マジですか。飼われようかな」
どうやって作るかなんて考えたこともないけど
孤独感に苛まれた父親がいる。
あの人の後ろ姿って、どんなんだったっけ。
「香織って、足音だけでわかる」
「前も言われたわ、ソレ。たるそうってことでしょ?」
「うん、にじみ出てるね、生きるのだるい、みたいな」
好きな人が恋人を作ると同時期に夢を諦める。
岡田……主人公。あまりしゃべらない。周りの人間がいうことをよく聞いている。
覚えている。
好きな音楽は大学時代の彼が聴いてたものを聴く。
特に詳しくない。
演劇を少し観る。
実家暮し。
23才。
内定が取れずにバイトする。
文学部。
でも古典は読まない。今の人を少し読むくらい。
あらゆることに熱がない。
断わらない。否定しない。
竹田に恋をしている。
でも明確に書かずに読者にわからせる。
あいさつをしてみる。
優しいですね、といってみる。
CDをかりる。
メールを送ってみる。
恋人ができた-泣かない。
夢を諦めた理由がそれなのかと思ったとたんに、泣きだす。
竹田……岡田と同い年。顔はいいが、暗い。バンド活動の傍ら働く。洋楽をたくさん聴く。
オアシスが好き。最近邦楽も聴き始めている。
「ビートルズだと何が好きなんですか?」
「僕にそれを聞きますか!?きいちゃいますか!?」
佐藤……「僕はね、30で死ぬんすよ」
木村……「そうですか?」
二〇一二年六月三日のiPhoneのメモ
本日の東京の感染者数 一七八人