児童文学のメモ(冒頭のみ)
1
朝になるといるんだ。緑色の変なのが。最初は僕にしか見えないなんて思いもしなかった。驚いて声をあげたら、お母さんもお兄ちゃんもおばあちゃんも目を丸くして言うんだ。
「どうしたのって?」
僕一人だけが椅子をひっくり返して腰をぬかして、あいつを見つめた。
「だだだって、え? なに、そいつなに?」
あいつは僕を見下ろしてニタリと笑いながら、僕のお気に入りのコンフレーク(ダンボのパクリみたいな象のキャラの)を片手で口まで持っていって、バリボリグシャグシャって音を立てて食べてる。
お母さんは高いからって言ってあんまり買ってくれないのに!
「そいつ何!なに!」
僕はリビングのドアまで逃げてお母さんたちに訊いた。
「そいつ?」
お母さんもお兄ちゃんもおばあちゃんもそいつのいる場所を見るけど、首を曲げて、僕に答える。
「どうしたの?」
「ゴキブリかなんかかね?」
「ええ!」お母さんが悲鳴をあげる。
「違うよすぐ横にいるだろ! でっかい、緑色の変なのが!」
緑色の変なのはコンフレークを逆さまにひっくり返して、一気に中身をかきこんだ。
もう12歳にもなるのでカッコ悪いことはしたくなかったんだけど僕はそいつが恐ろしくてさ、どんどんとテーブルから離れて、叫んびまったわけ。でもわかんないよな。みんな見えないみたいに、何もいないみたいにするんだもん。お兄ちゃんは「ヤクチューだな」って覚えたてらしい単語で僕をバカにする。
「こら!冗談でもそんなことを言うんじゃありません!」
お母さんは怒鳴って、おばあちゃんは笑った。
「ヨシ君は不良だねえ」
「ちょっと、お義母さんまでやめてよ」
わけわかんない。
僕からみれば、みんながヤクチューだよ!
だって、じゃあコンフレークはどう見えてるっていうのさ!コンフレークだけ浮いてるの?じゃあそれに驚くはずじゃないか。本で読んだけどジューリョクっていうのがあるはずで、大人たちはもっと詳しいはずなのに!
「お。お前ガキなのに、賢いな。2点やろう」
急に緑色の変なのがしゃべった。
僕は泣きそうになるのを必死で堪えていたのに、ゲームオーバー。涙がでちゃったよ。こうなるともうダメ。学校の怪談のいちおくばい怖い!!
僕は怖くなってそのまま自分の部屋に戻ってランドセルをしょってリ家を飛びだした。
小学校までの道のりを走りながら僕は緑色の変なのの顔を何度も思い浮かべては怖くなった。
寒くもないしプールから出たばかりでもないんだけど体がガタガタと震えるんだよ。我慢してたおしっこを一気に出したときの震えなんか、めじゃないんだ。
走れなくなって、うずくまるぐらい!
でも、僕は大変なことを思い出した。お母さんやお兄ちゃんやおばあちゃんを……
二〇十三年十月三日 iPhoneのメモ
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