アオアルキルキア

不定期連載

ヴァンパイアを作る

本日も出社した。

 

自作のゲームを作ったことがある。

中学生くらいだった。テレビゲームではなく、紙とサイコロを使う。何で作ろうと思ったのかはさっぱり思い出せないが、何かの拍子に思いついた。

それは、こういうもの。

大きな模造紙を買ってきて、まず双六を描いた。始まりから終わりまで、それは冒険するマップだ。魔物がいっぱい現れる森や山、進むと毒の攻撃を受けるエリア、機械の街、墓場ゾーン、世界を旅するような双六にした。

プレイヤーはまず、キャラクターを選ぶ。厚みがある方眼用紙を長方形に切り、キャラクターカードというのを作った。遊ぶ人は魔法使いだとか勇者だとか、そういうものの中から自分の好きなものを選べるのだ。

キャラクターカードには、パラメーターと、技が描いてある。ヒットポイントだとか、マジックポイントと一緒に、一から六まで、その技を描いた。

たとえば魔法使いなら、一〈火の魔法 十のダメージをあたえる〉二〈水の魔法 十のダメージをあたえる〉三〈雷の魔法 十のダメージをあたえる〉四〈……〉…

そんなふうにして、サイコロの目の数だけ、技を考えた。

そしてこれは双六でもあるので、プレイヤーたちはまずサイコロで駒を進める。進んだところに指示がある。モンスターと遭遇。このマスにとまった人は、モンスターカードを引く。モンスターカードにはいろんなモンスターがいて、モンスターカードにもサイコロの目が描いてある。すらいみー 一 ~ 三〈体当たり プレイヤーに十のダメージ〉などだ。

モンスターと遭遇したプレイヤーは自分の攻撃と、モンスターの攻撃のたびにサイコロをふる。モンスターカードもキャラクターカードもレベルが上がっていくと、高いレベルのカードと交換できる。そして、最初に魔王を倒したプレイヤーが勝利、という双六なのだ。

そういうルールのゲームを作った。

 

中学生だが、よく考えたと思う。

よく考えたと思うが、これを一人で全部作ったので物凄く大変だった。大変すぎて、結局完成しなかった。キャラクターカードもモンスターカードも手作り。一つのデザインをポンとワンタッチで大量印刷なんて、できない。弱いモンスターはたくさんいて、強いモンスターは少なくしたかったのだが、弱いモンスターカードがたくさんいる、というのが想像以上に労働だった。同じデザインのモンスターを手作りで一枚一枚描くのである。二枚目くらいまでは、同じクオリティだが、何枚も描くほど、雑になった。同じモンスターのはずなのに、丁寧な絵と、雑な絵のカードができあがり。モンスターのプロフィールとは関係なく、強そうなモンスターと弱そうなモンスターができてしまった。

一度だけ、簡単な、プロトタイプ版みたいなもので、友達のホリノくんとイチカワくんをよんで、このゲームをやった。彼らも楽しんでくれたが、何せ、未完成なところが多く、やりながら、こうしていくか、こうしていこう、などと一緒に考えたりした。かっこいいモンスターのデザインに、一番時間をかけた。RPGに出てきそうなモンスターを想像するのが何より、楽しかった。

 

最近、少年漫画と少女漫画をアプリで読む。一巻だけ読めるものが多い。たまたま、ヴァンパイアが出てくる少年漫画と、少女漫画を読んだ。少年漫画では、ヴァンパイアが戦う話だった。少女漫画では、ヴァンパイアと恋をする漫画だった。その違いを面白く感じた。少年だからバトルもの、少女だから恋愛もの、という括りかたはもう、時代にそぐわないかもしれない。たまたまその作者たちが男女で分かれた。性別ではなく、人間によって、その妄想の仕方が違うと考えた方が面白い。それで僕は、ヴァンパイアのモンスターカードを、描いたことがあるな、と思いだした。

僕がモンスターのカードを描いていたとき、クラスメイトの誰かは、空想のモンスターを使って、一体何を作っていただろう。

 

バンド、Awesome City Clubに「Vampire」という楽曲がある。これは、ヴァンパイアとの恋を夢想した歌というよりは、その事情は詳しくは語られていないが、夜にしか会えない想い人がいて、まるでVampireのような相手だと喩えている歌だ。牙、太陽、シンデレラなど、童話的な要素を散りばめ、いかにもヴァンパイアっぽく書いているが、人の歌なのである。以下に歌詞を一部抜粋する。(作詞:PORINさん/高橋久美子さん)

 

――(中略)噛みついて 全部あげるよ 怖くない――やさしい唇に牙を隠し/……――夢なら覚めないで 覚まさないで――……輝く太陽と引き換えますから/夜更かしが趣味のシンデレラは―― ……分かってるよ/朝日の前に姿消す/やさしいふりの ずるい人 ―― ちゃんとねえ、ちゃんと見て――

 

これは、人の歌なのである。

 

ある少年はモンスターを戦わせた。とある少女はモンスターと恋をした。Awesome City ClubはVampireを喩えて人間を歌った。

色々な作り手の、モンスターの使いかた。画家はヴァンパイアをどう描くか。作家はフランケンシュタインをどう描くか。貴方は、モンスターをどう描くか。

想像すると、面白い。

 

(本日の東京の感染者数 一〇六四人 NHKニュースウェブより)