アオアルキルキア

不定期連載

休日の妄想

 

休日らしい休日とはどういうものなのか。

 

僕は平日に働いて、土日に休む仕事をしている。

土曜日は出勤しなければならない日もあって、完全週休二日制ではない。半日出勤する週末がある。ほかの人より、少しだけ休日が短いような気がする。

だからなのか、どうにかして短い休日を有効活用したいと思う。

 

月曜日が始まった瞬間から、土日までのカウントダウンをして過ごす。平日を消化しながら、土日に何をしようかと毎週のように計画する。朝の通勤電車の中で、美術館や映画館、演劇のサイトを見て、ここにいこうかな、あそこにしようかな、などと理想的な休日を考える。

「次の土曜日は、午前中出勤だから、午後は美術館にでも行こう。夜は銭湯にでも行って、パソコンで映画を見て寝よう。日曜日はのんびり起きて、午前中に家のことを済ませる。午後は優雅に、買い物もいいな。夜は友人たちと呑み行こう。最高の休日にしよう」

土日が両日とも休みの週は、もっと細かく妄想する。

「家のことを土曜日の午前中にすべて済ませて、家にいるのはもったいないから、どこか雰囲気のある喫茶店で本を読もうか。気になるあの子をデートに誘って、夜はいい感じのお店で、一緒に見た芸術作品の感想を言い合って、夢見心地で布団にくるまる。翌日はお昼ぐらいに起きて、ミュージシャンのライブに行こう。あるいは知らない街に降りて、ぶらぶらしちゃおうか」偶然見つけた野良猫なんかをSNSにあげちゃって〝代官山の猫なう〝みたいにオシャレっぽい、ちょっと品のいい満たされた休日を計画する。

 

だが、

実際の休日が訪れるとどうもうまくいかない。

まったくうまくいかない。

もう完全にうまくいかない。

なぜかだいたい、金曜日は夜遅くまで働いているのにすぐに寝付けず、遅くまで起きているので、翌日が出勤だとものすごく眠い。ぎりぎりに目が覚めて、あわてて出勤、眠いまま仕事を終えるので、お昼ご飯を食べるともう眠い。あほのように眠い。

「明日も休みだし、今日は帰って寝よう。洗濯も、明日にしよう。半日あれば大丈夫だろう」と昼から夕方まで寝てしまう。目が覚めるともう日が落ちていて、だるくて、動く気がしない。平日に怠けたので、部屋が汚くなっている。黙々と掃除をし始める。意外とすぐに終わらない。

休日を休日らしく過ごすためには、本当は平日に頑張らなければならないのだが、平日に家のことを怠けているので休日に家のことをやるしかない。

飲み物や食べ物も冷蔵庫からなくなっているので、買い物に行く。だらだらだらだらとそういうことをやっているので、あっという間に夜が更ける。翌日のためにすぐに寝ればいいのだが、昼から夕方にかなり寝てしまったので、やはり寝付けない。仕方がないので、映画サイトで映画を見る。

なぜかいつも犯罪者の家族がテーマとか、人は死ぬと魂が21グラム減る映画とか、そういうのを選んでしまうので、いい映画であっても、つまらなかったものであっても、とりあえず映画を見たことでどっと疲れている。なにやってんだ。

まあ、しかたないと、深夜三時ごろにやっと布団に入って、寝る。

するともう、起きるとお昼を過ぎている。

 

あれ、あれあれあれ。

急いでたまった洗濯物を洗いながら、計画がことごとくうまくいっていないことに気づく。

美術館は?

代官山の野良猫は?

気になるあの子はどこにいるの?

 

土日が両日ともに休みの日でもほとんど変わらない。

寝ている時間が増えるだけだ。

休日は、仕事が休みの日であるので、それが普通なのかもしれないし、寝て過ごす日ほど贅沢なこともないだろう。

けれど毎週のように「無駄にした」と思ってしまう。

「あれもこれもいきたかったのにどういうことだ!」となってしまう。

 

わざと予定を入れてみたりする。

「土曜日の夜にご飯にいこう」と女の子を誘ってみる。

日曜日はお昼過ぎに美容院を予約する。

土曜日の午前中に洗濯を済ませて、いい感じのディナーで、あの子との距離もいい感じ。

日曜日に美容院で「美術館に行く人っぽい髪型にしてください」と無茶ぶりをして、ハイセンスな俺の姿でハイセンスな現代アートに酔いしれる俺、みたいなことを妄想する。

 

だが、それでもうまくいかない。

やはり可能な限り寝ている。

どんどんバカになっているような気さえしてくる。寝すぎて頭が痛い。

夜に会う約束をするとほんの数時間前まで、寝ている。せっかくのデートも寝ぼけ眼で向かうので、相手をすでに幻滅させているような気がしてしまう。頭は痛いし、全然口説く気持ちになれない。「疲れたわー」などと言っている。最低か。

翌日の美容院も同じだ。ぎりぎりまで寝ているので、シャワーを浴びずに美容院へ。「どうせ髪洗うし」などと思うが、どこか申し訳ない。

寝起きの顔面が鏡に映る。

「ああ、どうみても、寝起きの顔だ」

こんな顔面で、美術館に行きそうな髪形、などといえるはずがない。

 

計画はいつも完璧。

妄想もいつも完璧。

でも現実の休日だけが、うまくいかない。

 

少し前のアイドルの歌に――めっちゃホリデイーーと歌うもの(松浦彩さんのやつですね)があったが、どんなだろうか。めっちゃ、ホリデイって。そもそも平日か休日か、どちらかしかない。全か無かの法則みたいに、0か1であって、十か百かという話ではない。それなのにめちゃくちゃに休日だって、その表現が不思議だ。いえーいと感嘆までしている。

と・て・も・休日である、というのは、どういうことか?

 

でも、

もしかしたら、僕が妄想の休日を実現できたら、それはめっちゃホリデイ、な気がする。実感することがあるかもしれない。

計画通りの休日は、さぞかしホリデイ感が満載だろう。

 

 

なんとかして、どうにかして、

めっちゃホリデイにしたい、と思いながら、僕はまた、月曜日から、休日の予定を立てている。

 

 

 

休日は理想や夢で眠くなる。起きると夜がうまくいかない。