アオアルキルキア

不定期連載

「X-MAS」なら、読める

今日はお休み。

 

僕は日本に住んでいるので、日本語だけは人並みにしゃべることができる。だけど、外国語は総じて、苦手だ。

小学生くらいのころに、ローマ字を習い、ひらがなや漢字以外の文字の仕組みやその音を知った。それから、中学生になると英語を習った。ローマ字と同じアルファベットで、外国には外国の文法があることを知った。漢文のレ点だとか、主語、述語、目的語といったそのルールについて知っていった。言葉には単語と文法がある。生まれてしばらく経ってから、すでに日本語でコミュニケーションをとっていたのに、やっと文法を習い、言語の仕組みを理解していった。義務教育が終わると、英語以外の言語を勉強する人がいる。主に大学生が、それにあたる。第二外国語というものだ。それは大学によっても違うし、選ぶ人の好みにもよる。あるいはもっと大人になってから仕事で必要になる人もいれば、外国に興味を持ち、興味を持った国の言語を知ろうとする人たちがそうだ。純粋に尊敬する。僕は英語ですらとっても苦労した。僕が通った学校でも、言語が学べる講義があったので、フランス語を選んだ。セタンほにゃらら、デュ・シ・ラ・ヴァ、ク・シェうんたらかんたら……そういうのを習った気がするが、もはや全く思い出せない。全然違うかもしれない。そんなような音だった、とおぼろげに浮かぶが、一文字も信用しないで欲しい。僕は勉強が苦手なのだ。フランス語を選んだのは、当時見たフランス映画が、カッコよかったので、フランス語がわかる僕も必然的にかっこよくなるはずだった。男性名詞と女性名詞があるのも、英語と同じアルファベットなのに、読み方が違うのも、かっこよかった。リサとガスパールの教科書で勉強した。しかし、少しもしゃべることはできずに、とってもかっこ悪いまま終わったのである。

 

僕は洋服屋さんに好きなブランドがいくつかある。

靴屋さんにも好きなブランドがあるのだが、初めてそのお店で買い物したとき、こんな会話をした。そのブランドはCAMPERと書く。

「このお店、キャンパー? でいいんですか、読み方」

カンペールです」とお姉さんは、にこやかにいった。

どこをどう読んだらカンペールだよ、冗談いうな、ふざけやがって、どう見てもキャンパーだろ、おしゃれがすぎる、などと思ったがフランスのブランドなので、フランス語として読むだけ。ふざけているのは圧倒的に僕のほう。(もしもフランス語をちゃんと勉強していたら、尋ねることなく読むことができたかっこいい人だったのだが。)わざわざ店員さんに、ブランド名の読み方を聞いたのは、恥をかきたくなかったためだ。すでに、恥をかいた経験があった。

Francfrancフランフラン)という雑貨屋さんがある。僕はずっと、フランクフランクだと思って「フランクフランクで買ったんだ」とつい声に出していった。「どこだよそれ。ファーストフードかよ」と家族にたいへん馬鹿にされ、それ以来アルファベットは、まず読み方に怯えるようになってしまった。(フランフランは、日本の企業だった。しかも意味合いはFrankからきている造語らしい。こっちがお洒落な「冗談」だったのだ。)

COMME CA (コムサ)の系列店も読むのが怖い。デの部分は読むのか、読まないのか、今でも不安になる。A.P.C(アーペーセー)も恐ろしい。いやいやいや、どう見ても、えーぴーしー。読むのが怖い。調べても不安になる。Agnes.b(アニエス・ベー)もエニエスベーだかなんだかわからなくなる。外国語を勉強していない僕にもわかるように、かっこ悪くてもいいから、すべてのロゴの上にルビをつけてほしい(かっこ悪いのは僕なのだが)。

読めないものは、何も、ブランド名だけではない。バンド名でも現れる。

バンド、ROTH BART BARONは大胆な音楽で荘厳にすら感じる。少し季節がずれているが、「X-MAS」という楽曲の歌詞を引用する(作成:ROTH BART BARON)

 

――君はここで生き延びて/新しい街をつくるんだよ/やりたいことをやりたいようにやりたいだけ やってしまえよ/もしも世界がつまらないのなら/滅ぼしてしまってもいいよ――(注・漢字・ひらがななど、表記が原文と異なる可能性があります)

 

まるで映画のクライマックス、演劇のカタルシスのような世界観、物語性があり、背景をもったもののBGMにしたくなるような広がりのある楽曲ばかり。そしてその歌詞はどこかに残酷さや突然後ろから刺されるような怖さがあって、聴く人を引き込む。僕はこのバンドを知ったとき、かっこいいなと思ったが、同時に怖かった。

バンド名が、読めないのである。英語でいいんだろうか。

ロス・バート・バロン……? 正解は、ロットバルトバロンだ。

やはり、普通には読めなかった。このバンドは、文学性が高いと評価されることがあり、バンド名もまたチャイコフスキー(一八四〇―一八九三)の「白鳥の湖」に出てくるキャラクターからとったものだという。由来もかっこいいが、かっこいいバンドがカッコよくあるためには、勉強が必要。チャイコスフキーはロシアの人。そのキャラクターからとっているということはロシアの人が考える名前だ。僕が読めないのも納得(いいのかそれで)。このバンドは、僕とは違い、勉強をたくさんしているからこそ、かっこいいバンドになりえている。

 

ちなみにクリスマスをわざわざ選んだのは、そのスペルもまた怖いからである。

X-MASはあくまでも略語。本当はChristmasと書く。もちろん英語だが、よく見ると、間にあるtが怖い。クリストマスと読んでしまいそうなのだ。

英語ではないから、造語だから、怯えていたようでその実僕は、アルファベットに怯えているのかもしれない。勉強してない人にも読めるようにX-MASと表記しているのだとしたら、ロットバルトバンドはかっこいい上に、優しいバンドだ。モテるのもうなずける。

 

(本日の東京の感染者数 七六九人 NHKニュースウェブより))