アオアルキルキア

不定期連載

そんな番組が好きだった

 

リモートワーク四日目。まだコロナではない日記。

 

はなまるマーケット」が好きでよく見ていた。

浪人生のころや、学生時代に午前中の講義をさぼっていたときだとか。

当時ゼミの先生に「はなまるマーケット好きでよく見ています」というと「そんな番組ばかり見ていたら馬鹿になるよ」といわれた。それから見るのをやめてしまった。いつの間にか番組は終わっていた。

いわれてみれば確かに「はなまるマーケット」で紹介されていた主婦のためのアイデアだとか、情報だとか、ほとんど何も思い出せない。世の中に必要な情報だったのか、生きていくために意味のある番組だったのかといわれると首をかしげる。だがそんなことを言いだしたら、全てのテレビ番組に意義を問いかねない。生きていること自体に意味などないのに。先生もきっとその番組を貶そうと思って言ったわけではない。お昼前のテレビ番組を習慣的に見てしまうような、だらしない生活の僕自身を叱ったつもりだったのかもしれない。でもそんなことをいった先生も、こんな未来が来るとは想像していなかったに違いない。今、僕が学生で、その先生の生徒であったなら、「はなまるマーケット」がまだ放送を続けていたのなら、先生がいった言葉も違ったはずだ。

だらしない生活の中でつい見てしまうような番組の顔であった岡江さん、時には美しい女優だった岡江さん(「恋がしたい恋がしたい恋がしたい」に出ていた岡江さんも好きだった)が亡くなった。なんて悲しい出来事だろう。こんなにつらいことがあっていいのか。

 

はなまるマーケット」は生放送だったこともよかった。番組の間で誰かが言い間違えたり、失敗したりした時に岡江さんはその快活さで乗り切った。岡江さんに対してヤックンがツッコミをいれていた。時には呆れて笑っていたのも覚えている。でも岡江さんも負けずにやり返していた瞬間も何度もあった。二人して勝ち負けのあるゲームを一緒に楽しんでいるような番組だった。

僕はたぶんあの番組を見ていた、というより岡江さんとヤックンのやり取りを見ていたのだと思う。せっかちで大雑把な反応をする岡江さんと、少し神経質で裏がありそうなヤックンは、ちょうど正反対のキャラクター。見ていて楽しかった。具体的なシーンはほとんど思い出せないけどゲストが用意した写真を見ながらトークをするコーナーだとか、その時ゲストが紹介する思い入れのあるお菓子(コーナーの名前を忘れてしまった)の紹介、書いていたら色々と思い出してきた。ゲームのようなやり取り、と喩えたけれど、そういえば最後のほうのクイズコーナーでは番組に芸能人でない方が呼ばれて、岡江さんやヤックンがチームになってまさに競い合っていた。

  

今年に入ってから瞬く間に世の中は変わり、毎日朝から晩まで家にいるようになった。家で働かなければならないというのは、生活の中でだらしなく過ごすことを許してもらえなくなるような窮屈さがある。マスクをとっても息苦しい。テレビ番組のほとんどがコロナの現状についての情報になりつつある。もはや、生きていくうえで必要な情報しか流れていないような環境だ。

今だからこそ、あのときのような番組がたまらなく愛おしい。魅力的な無駄、意味のないやりとり。思い出すと切なくてたまらない。そんな番組ももう、二度と見ることができない。

 

岡江久美子さん。ファンでした。

元々は別の内容を書こうと思っていたけれど、これを日記としている以上、出来事の大きさに触れずにはいられなかった。

 

ご冥福をお祈り申し上げます。