アオアルキルキア

不定期連載

ドギーマギーなお年頃

今日は仕事もお休み。

だけど、どこかに出かける予定もないし、誰かと会う予定もない。独りぼっちのお休みだ。

ただでさえ、在宅勤務で人と会わないのに、週末もどこにもいかないとなると率直にいって寂しい。

僕は独りが好きなのに、独りぼっちが嫌いだ。

たとえばあの人に会いたい。あの人とご飯を食べると目の前で美味しそうに食べるから、見ているこっちも幸せになる。たとえばあの男の子とお酒を飲みたい。彼は、僕より年下なのに落ち着いていて、僕もしっかりしないと、という気分になれる。あの女の子と買い物に行きたい。ぶらぶらしながら、あれもいいこれもいいって、いいあっているだけで楽しい気持ちになるから。あのおじさんの話を聞きたい。おじさんはガハハハッと笑うのでおかしくないことも同じように声を出して笑ってしまうのだ。

会いたい人がいっぱいいるのに会えない。

そういう人への、恋心が募る。

 

昔、似たような思いを募らせていた時期があった。

獣医さんになりたくて浪人して勉強していた。浪人生なので通学はなかった。結果三浪もしてしまった。はじめの一年だけは親にお金を借りて、予備校に行かせてもらっていたが、そのあとは実家から図書館に通っていた。開館時間から家を出て、勉強をする。お昼は駅の方へ向かったり、コンビニでお弁当を買って近くの神社で食べていたりした。まるで人と話をしなかった。家と図書館の往復、会話をするのは実家にいる親とだけ。買い物をすることがあっても、店員と話す言葉は会話ではなかった。友だちはみんな、大学の人たちと遊んでいたし、就職したりして、ほとんど会えなかった。モテない高校生のまま浪人生になったので彼女なんてもちろんいなかった。僕も人と喋りたい。買い物に行ったり、サークル仲間とお酒を飲んだり、キャッキャうふふと遊びたい!

当時、わりと流行ったテレビドラマがあった。TBS系列の「オレンジデイズ」。脚本家は北川悦吏子さん。大学生男女のキャンパスライフの恋模様が描かれたものだった。キャストは妻夫木聡さんと柴咲コウさん、成宮寛貴さん、白石美帆さん、瑛太さん。華々しい俳優陣だ。実際はこんな大学生たちがいるはずないのだが、僕には大学生の友だちもいなかったので、大学ってこういうところなのか!と刷り込まれた。

ああ、僕もこういう大学生になりたい! 恋模様にドギマギしたい。将来のことに悩みながら成長したい。単純に、ドラマチックな彼らが羨ましく、憧れもした。

結局受験には失敗して、全然関係ない専門学校に通うことにした(つまり大学生にすらならなかった)。だけどその恋しさ、人とつながりたい気持ちはとても大きかったので、学内の学生たちに話しかけまくった。みんなと友達になりたかった。サークルなどはなかったが、男女数人で毎日のように遊ぶ、ということもやりたかった。思惑通り、よく遊ぶ男女のグループができた。キャンパスライフの恋模様、みたいなこともあったような気がする(幻だったかもしれないが)。

 

まさか、十数年後に、似たような思いに駆られることがあるとは思わなかった。

状況も違うし、環境も違う。また、人とつながることができない理由も異なる。募らせている気持ちももちろん、あのときのものとは似て非なるものかもしれない。僕自身もまた年を重ねた。コロナがもしも落ち着いて、元の生活を送ることができるようになっても、手当たり次第に話しかけまくるようなことはしないだろう。何よりそういう環境もない。

 

あの年だから、あの年齢だからできた〝募らせた思いの実現〟かもしれない。

 

クラムボンというバンドに「ドギー&マギー」という歌がある。その詞(作詞:原田郁子さん/ミトさん)の一部を引用する。

――ドギーマギーしちゃうお年頃です/強くなれたらってそれだけなんです――

 

ドギマギするお年頃から、僕はいまだに抜けられないように思う。この歌は、強くなりたいから頑張ると歌う。

人が人恋しくなる理由は、何だろう。強くなるために、人は人と繋がろうとするのだろうか。強ければ、独りでも大丈夫なように思った。

そうではなく、誰かがいると人は強くなれる、ということなのかもしれない。

今、こういう状況で誰かがそばにいる人は、きっと〝強い〟

僕はまた、そういう人たちを憧れ、羨ましく思ってしまう。

 

 

(今日の東京の感染者数一四九四人。全国では六〇八一人。NHKニュースウェブより)