アオアルキルキア

不定期連載

アウトドアの定義

今日は出社勤務だった。

明日も出社する。来週も出社する。本当はしばらく在宅の予定だったが、大阪支社のデータ抽出を手伝わなくてはならなくなった。会社での僕の業務は、比較的新しい専属業務。ここ一年ほど、本社の案件をいいペースでこなしていった。支社でも同様の業務があるが、専属ポストがあるのは本社だけなので、支社の案件がたまってしまった(いくつか支社はあったが、同じ業務ができる人は一人しかおらず、別の業務と並行して行っているため、ほとんど進まない)。それで、僕が支社の案件も手伝うことになった。よくよく見ると急がないといけないものが残っている。データ抽出はクライアントのサーバーを使うので、出社しないとできない。僕のチームで出社と在宅を割りふっていた計画も一から立て直し。せっかく在宅勤務が増えたはずだったのに。がっかりしてしまった。でも、業務によっては在宅ができない人もいる。少しでも在宅ができるなら、まだいいではないか、と怒られそうだ。

 

同世代で久しぶりに会ったり、グループラインで話をしてみると「ずっと在宅」をしている人もいれば「管理部だから出社多め」な人もいたり、僕のように出社と在宅が入り混じっていたりと様々だ。職業に貴賎なし、のはずだが昔から人は仕事を区別したがる。ブルーカラーとホワイトカラーといった言い方があるように、業務の毛色が違うことをわざといいかえる必要が、本当にあるのなら、在宅勤務が中心の職種と出社するのが中心の職種をわける言葉もいずれできるのだろうか、と考えた。昔からあったのかもしれないし、これからできるのかもしれないし、今まさに誰かがそれを発明するのかもしれない。調べてないが、これを僕が思いついたのは今日なので(遅い?)、あえて調べない。僕は、たった今、自分でその職種のいいかえかたを決めた。

使い方はこんな感じ。

「きみの仕事はインドア(在宅勤務が多い)? アウトドア(出社が多い)?」

「私は飲食店(在宅勤務はないから)だからアウトドアだよ」

これはたぶん、ややこしいけど、おもしろい感じがする。

これでいえば、本屋さんの店員さんも、映画館のおねえさんも、劇場のチケットもぎりのお兄さんもアウトドア。病院に向かうドクターも、バスの運転手さんも電車の車掌さんもアウトドア。

家から出て、職場に向かう人は、みんなアウトドア。

在宅ができないのではない。仕事がアウトドアなだけなのだ。

やむなしだ、外の世界が貴方を呼んでいるだけなのだ。

 

わざわざいいかえるなら、せめて「在宅できる人はいいな」というふうにあんまり思わなくてよくなりそうな言葉がいい。ずっと在宅勤務の人はインドア。たとえその人が、コロナ禍の前は、山や川が好きでキャンプが好きで、土日はいつもドライブにいっていて、夏は必ずフェスに行き、海に行く、アクティブなスポーツマンでも、仕事がどちらかきかれたら「私はインドア」と答える。それもやむなしだ、家庭が貴方を呼んでいるだけ。

この言い方で、少し仕事が好きになれたりしないか。出勤するとき、コロナが怖いな、在宅したいな、と思うのも当然わかるが「仕事がアウトドアだからさ」なんて誇らしげにいうことだって可能ではないか。

 

cero(セロ)というバンドに、「outdoors」という楽曲がある。(作詞:高城昌平さん)

以下に歌詞を引用する。

 

――誰もいない雨の草原で/透明なテントを張って/煙草を吸う/裏切られた約束は/風に乗った/「次はどの星に行くの」/透明な/テントのなか/サウンドスケープする/さよならの汽笛――

 

僕は明日も家を出る。会社に向かう。透明だから僕のテントは誰にも見えない。でも本当は張っている。風に乗れるかもしれない。星が見えるかもしれない。音楽を聴きながら電車に乗る。僕の仕事はアウトドア。出勤と退勤、平凡な風景が夜のキャンプみたいに見える、かもしれない。

 

――(中略)黒い空気/ひやりとした膜/燃やされるのを/期待してみる――

 

仕事から帰る帰り道も違ってみえる、かもしれない。情熱の火も、灯るかもしれない。

 

本日の東京の感染者数 一四七一人 今月だけで、三万人超え。(NHKニュースウェブより)全然減らないし、二日連続増えている。

(アウトドアには、危険がつきもの……全然笑えないが)