アオアルキルキア

不定期連載

再結成をしてみたい

今日は在宅勤務だった。

 

バンドを組んだこともないのに僕は、再結成、というのをやってみたい。

 

僕は中学生ぐらいのころから、音楽を聴き始めた。

自分のお小遣いで初めて買った邦楽シングルは、ハイロウズの「青春」。それから兄に「このバンドの二人は、元々はブルーハーツというバンドをやっていたんだよ」と教えてもらって、ヒロトマーシー、という生きる伝説を知った。でも、ブルーハーツは、すでに解散していた。それから、ブルーハーツハイロウズのアルバムというアルバムを聞き漁った。初めて買ったアルバムは奥田民生さんの「CAR SONGS OF THE YEARS」。民生さんを知ったのは、当時見ていたドラマの主題歌「さすらい」を歌っていたから。長瀬智也さんが主演のドラマだったと記憶している。民生さんも元々はユニコーンというバンドをやっていた人なのだということは、ずいぶん後になって知った。それから民生さんの音楽を全部聞いた。民生さんの歌を追いかけるようになって、「美しく燃える森」という歌が聴きたいがために東京スカパラダイスオーケストラ「Stompin′On DOWN BEAT ALLEY」というアルバムを買った。そこでチバユウスケさんを知った。歌い方にしびれた。それからTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTというバンドの人だということを知って、追いかけた。でも、知ったときにはやっぱり、TMGEは解散していた。同じようにTMGEのアルバムを聞き漁った。二十一歳、初めての恋人ができた。彼女は吉井和哉さんが好きだった。僕も聴いたらあっという間に好きなった。それから、吉井和哉さんはTHE YELLOW MONKEYというバンドの人だと知った。

それからも、僕はそういう出会い方をするバンドばかり好きになった。気がついたときにはだいたい解散か、脱退か、活動休止。僕は何をするにも遅い。音楽に興味を持ったのも遅かったし、気がつくのも遅かった。出会うのも遅い。そのせいで、たいていのバンドが、知ったときにはもうやっていない。

 

バンドの歴史を想像する。青春時代、一緒になって、魂を削るように音楽に身を投じる。下積みから、少しずつ認められていき、ワンマンライブまで成長、それぞれの性格や個性が良くも悪くも表面化。アルバムの特典でつけるDVDで誰がふざけるのかが決まってきたり、バンド内での立ち位置などが見え始めたり、それぞれのメンバーが各々の強みを持ち始め、少しずつ違う道が見えてくる。バンドといえど一つのコミュニティなので色々な事情がある。解散することを選んだバンドに誰かがとやかくいうことはない。

 

いつの対談だったか、何の雑誌だったかはすっかり忘れてしまったけれど、あるとき、民生さんと吉井さんが対談をしている雑誌があった。二人がそれぞれ、昔やっていたバンドの話をした。ユニコーンが再結成して少し経ったころ。イエモンは再結成しないのかと民生さんが、からかうようにいっていた。そのとき吉井さんは「イエモンはしない」というようなことをいっていた。だけどしばらくして、再結成した。「おいおい、あのときしないっていっていたじゃないか」などとは思わない。

僕は単純に、喜んだ。再結成は、嬉しい。

 

いつだったか、飲み屋さんで、友だちがいっていたことを思いだす。

「喧嘩して、仲直りした後にエッチするの、めっちゃ楽しいよ」

人と人の密な時間と再結成を比べるのは、安直かもしれない。

けれど一緒に何かを作るというのは、愛する行為そのものだ。密な時間に間違いない。

何より、再び集まった大人たちの、楽しそうな顔ときたら、子供みたいだ。見ているだけで、こちらまで若返る。

 

バンドをやったことのない僕は、再結成することができない。

子どものころに一人で描いていた油絵を、大人になって再開しても、そこで生まれるものを知ることができるのも、見ることができるのも、自分だけ。感動するのも元気になるのも自分だけ。

バンドは違う。何人かが知っている。あそこのスタジオで、あのライブハウスで、あの時のレコーディングで。思い出す場面はメンバーそれぞれ。誰かが覚えていることも、誰かは忘れてしまう。でも同じ場面をたくさんのカメラアングルが保存している。誰かが見ていなかったところを、別の誰かは見ている。一度は違う道を選んだ人たちが、再会して、昔みたいにはしゃぎあう。自分たちを俯瞰して、思い出す。自分のことなのに、思い出すのは自分たち、その塊。それは遠くから見る自分たちの姿だ。再結成が広げる場面は、映画のエンドロールみたいな大団円。だから僕はそういう、メンバーのいる人たちが、羨ましい。

 

バンド、THE YELLOW MONKEYに「ALRIGHT」という楽曲がある。これは再結成をした際の歌。祝福にあふれ、それまでのそれぞれの時間が蘇る。そのアングルは、どれも愛であふれた言葉だ。以下に歌詞を引用する。(作詞:吉井和哉さん)

 

「(中略)――命はいつか絶えるだろう/だけど最高の出会いが/月日は流れて…

力を集めて ひとつに集めて/あなたと別れて 激しく求めて/

ひとつに生まれて 無数に別れて――(中略)」

 

 

 

 

(本日の東京の感染者数は五五六人 徐々に減ってきているように思うが、死亡者数は過去二三人 NHKニュースウェブより)